お盆休みが明けました。
ピークをずらして今が休暇の真っ只中という方もいらっしゃるかもしれません。
今年は感染症拡大に配慮をしつつ、人の集まる機会も戻りはじめ、
ご実家等でお酒を嗜まれた方々もいらっしゃったのではないでしょうか。
本日はそんなお酒に関わるお話を綴ってみたいと思います。
国税庁が出している「酒のしおり(令和4年3月)」レポートによると、
日本国内の「酒類課税移出数量」(※市場規模)は全体として縮小傾向にあります。
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2022/index.htm
酒類別に見てみると、とりわけ、ビールの減少幅が顕著になっています。
ビール市場縮小の原因を探ってみると、
発泡酒やチューハイ、そしていわゆる「第三のビール」の取扱増による、
消費者の移行がみられるようです。
たしかに近所のスーパーで売り場を見渡してみても、
ビール以外の酒類が多様化、お客様にとっての選択肢が豊富になっています。
金額で見比べても、ビールの隣には桁一つ違う安価なお酒が並べられており、
ビールにとって厳しい戦況であることは想像に難くありません…。
このように全体としては縮小傾向にあるビール業界ですが、
近年は空前の「クラフトビール」ブームを迎えています。
「クラフトビール」という言葉に関して、
日本では決まった定義がなされていないようですが、
大手クラフトビール会社の株式会社ヤッホーブルーイングのホームページによれば、
「小規模な醸造所がつくる、多様で個性的なビールのこと」だそうです。
https://yonasato.com/ec/craft_beer
いわゆる大手ビールメーカーがつくっている「キレ・喉越し」を楽しむラガービールとは対称に、
原料である麦やホップの「豊かな風味」を楽しむエールビールという捉え方をされるとイメージしやすいのではないかと思います。
なかには地元の果物や野菜などを副原料に使用し、地域の特徴を生かした「地ビール」を製造している工場も多く、
「地方創生」の文脈の中で語られるケースも多い印象です。
全国各地で盛り上がりを見せる「クラフトビール」。
そのビジネスモデルを少し考察してみたいと思います。
ビールに限らず製造業は一般的に「装置産業」と称されます。
これはサービス提供のために、巨大な「装置」を用意する必要がある産業のことを言います。
宿泊施設や入浴施設といったハードな施設を要する旅館業などもこれに該当します。
事業開始にあたり大きな投資が必要となることに加え、
施設・設備の維持にも大きな固定費が発生することから、
ある程度の売上規模に至るまで利益の出しづらいビジネスモデルになっています。
この特徴を踏まえると、事業主としては利益が発生する売上まで、
せっせと販売実績を拡大していきたいところではありますが、
ビールはほかの工業製品と異なり、今日作ったものが明日売れる状態になるものではない、
逆にいえば、明日必要になったビールが今日完成するというものでもないのです。
つまり、仕込んだ日から製品として出荷できるようになるまでに、
早くて数週間以上の発酵・熟成の期間が必要です。
「製品化するまでのリードタイム」が発生するのです。
したがって「生産と販売の正確な見込みをたてる」
ここが製造業、とりわけ、
生きた酵母を扱うクラフトビールビジネスの難しいところです。
また、取引先が増えてくれば、設備投資をして製造能力を高めたいところですが、
タイミングや投資規模を誤るとこれもまた製品原価を拡大させてしまいます。
このように、「装置産業」「製品化までのリードタイム」
という独特の難しさを孕むクラフトビールビジネスですが、
こうした課題を乗り越えた一つの事例をご紹介いたします。
少々ときを遡りますが2014年9月、
クラフトビール大手・株式会社ヤッホーブルーイングと
言わずと知れた大手ビールメーカー・キリンビール株式会社が提携関係を結びました。
当時のIR情報を見ると、
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2014/0924_01.html
「ヤッホーブルーイング社は今後の飛躍的な成長を見据え、製造拡大に対応すべく、キリンビール社に一部製品の製造を委託します。
また、キリンビール社は、イベントとインターネットを組み合わせたファンづくりなど、
ヤッホーブルーイング社が展開している新たな手法によるお客様接点づくりや
マーケティングについてのノウハウの提供を受けます。
さらに、両社は若手を中心とした人材育成や原材料の共同調達などを通じて、お互いのビール事業の発展につなげます。」
との記載があります。
提携の背景も踏まえて少し嚙み砕いて読み解くと、
キリンビール社はこの年、クラフトビールブランド「SPRING VALLEY BREWERY」を
立ち上げており、クラフトビール市場に本格参入していきます。
ヤッホーブルーイング社はそれまでクラフトビール市場をけん引してきたリーダー企業として、
蓄積してきたマーケティングノウハウを提供する代わりに、
自社で設備投資をすることなく、製造能力の拡大に成功した ということです。
この提携はここまで考察してきたクラフトビールビジネスの難しさを
一気に解消する解決策を見出したものであるように思います。
ご存じの方も多いと思いますが、
その後、「SPRING VALLEY 」は2021年に全国の量販店での販売を開始、
「これぞ、クラフトビール」というキャッチコピーで、
一気にクラフトビール市場のトップシェアに躍り出ることとなりました。
ここまでのシナリオは、両社にとってまさに
Win-Winのかたちであったのではないかと思います。
選んだビジネスモデルによって
「どうしても解決が困難な課題」というものが存在します。
事業を始める時点でご自身が始めようとしているご商売が、
どのようなビジネスモデルで成り立っているのかを改めて整理しておくことが重要です。
それによって、乗り越えなければならないハードルを予め認識し、
守りと攻めのポイント、つまり、どこに事業の資源を割いて、どこを締めるのか。
そういった「戦略」を誤らずに済む、かもしれません。
また今回ご紹介したように、
自社単体での解決は難しくとも、他社と連携を図ることで、
クリアしていくのも一つの手です。
事業のディテールを詰めていくことも重要ですが、
まずは全体感を認識しておくということもまた、
同じように非常に重要なことのように思います。
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