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趣味から偶然生まれた新規事業「知域王」が、
全国から注目を集めるまで。

#新しい価値をつくる
#地方創生のカタチ
#出る杭を引っぱる

趣味から生まれた新規事業。

愛宕商事株式会社
田宮 翔

愛宕商事株式会社旅行事業部勤務。2019年中途入社。幼稚園教諭から営業職に転職。入社後は教育事業部(現 ビジネスソリューション事業部)で教育機関向けの営業を担当。1年半で100件以上の顧客を開拓する。その後、趣味のボードゲームを活用した地域学習教材「知域王」を独自開発。マスコミにも取り上げられ、現在全国の自治体やNPO法人などから問い合わせが殺到中。

これまでのキャリア
1年目
教育事業部で、教育機関の新規開拓を担当し、顧客数を数倍に。
2年目
趣味のボードゲームから新規事業「知域王」を企画し、開発・営業も行う。
4年目
旅行事業部へ異動。「知域王 新潟市版」「知域王 内野版」を開発・営業。

幼稚園教諭から営業職。1年半で100件以上の新規開拓。

元幼稚園教諭だったと言えばみんな驚く。営業がやりたくなってNSGグループの商社である愛宕商事に入社したのが2019年。配属された教育事業部では学校に物品を販売する。与えられたミッションは、NSGグループ外の学校を新規開拓すること。グループ外の取引学校はわずかに10校程度に過ぎなかった。新潟市内の公立の小中学校を回る。インターホン越しに挨拶しても、その場で断られることがほとんど。それでも顔を覚えてもらおうと、毎週決まった曜日に通い続けた。たまに中に入れてもらえても決して売り込みはしない。雑談をしながら、粘り強くチャンスを待った。入社後3ヶ月は1つの注文も取れなかった。いつものように雑談をしたある日の帰り際。「加湿器は扱っていますか?」。「はい、ご用意できます」。確信はなかったが、二つ返事で答えた。上長に相談するとすぐに調達してくれた。加湿器20台が初受注だった。そこからは堰を切ったように仕事が増えた。「あの人はよくやってくれるよ」。学校から学校に噂が広まる。インターホンを押せば名乗らなくても開けてもらえるようになった。一年半で新規開拓した学校は100を超える。グループ外の学校取引は教育事業部の一つの柱になった。

趣味から生まれた新規事業。「知域王 佐渡版」の誕生。

2年目に転機がきた。幼稚園教諭の頃から趣味だったボードゲームを、一度社内研修に提案したらウケが良かった。これを教育事業に取り込めないか。ちょうど別プロジェクトで関わっていた佐渡市の教育委員会が地域学習のアイデアを探していた。「いっそオリジナルのゲームを作ってみたら?」。上長の一言で歯車が動き出す。地域の歴史、風土、自然、暮らしを、52枚のカードを通して、遊びながら学べる役作り対戦型ボードゲーム。ルールはぜんぶ自分で考えた。ただし、52枚のカードは佐渡に暮らす方々と一緒に作り上げることにした。教育委員会や学校の先生、観光業を営む方々、一般の人たち。佐渡に足を運ぶたびに人の輪が広がった。5ヶ月後、たくさんの人たちの佐渡に対する思いを詰め込んだボードゲーム「知域王 佐渡版」が完成した。「本当にいいものをつくってくれました。」佐渡市役所で行われた寄贈式では、市長や教育長らが予定時間を大幅に越えて歓迎してくれた。小学校では先生たちが社会科や総合の授業に活用して、子どもたちに広まった。PTAや商店の方々が自主的に主催した知域王大会が、島内のあちらこちらで催され、たくさんの人たちが知域王に熱中してくれた。知域王は汽船のターミナルや観光地でも販売され、今も変わらずに売れ続けている。

メディアにも注目され、知名度が一気に高まる。

「佐渡版の次は新潟市版を」と決めていた。噂を耳にされていた新潟市の教育長からは「ぜひやってほしい」と即答をいただいた。さっそく学校の先生と市の職員からなるプロジェクトチームが立ち上がる。「新潟は潟のまち、潟は入れたい」と社会科の先生が口火を開けば、文化政策課からは「文豪、會津八一を」。道路交通政策課からは「新しい新潟駅はこれからのシンボルだ」。時間をかけて一つひとつの物語を全員で共有する。新潟を知るほどに愛着が深まり、人に語りたくなる。52枚のカード1枚1枚が熱を帯びた。完成した「知域王 新潟版」は地元のテレビや新聞で取り上げられた。ネット記事でもたびたび紹介され、世間の注目を集めた。あるとき、母校の内野小学校の校長先生から連絡が入った。「創立150周年の記念事業として、知域王の内野版をつくりたいのです」。内野町は人口1万人余りの小さな町。できるのか。不安はあったが、先生や町の人たちの期待に応えると決めた。子どもたちと一緒につくる過程をメディアも入れた公開授業にすることを提案。6年生120人と一緒にワークショップを行った。「内野町の好きな場所を教えてよ」。角のパン屋さん!あそこの公園の遊具!橋から見える夕日!子どもたちの純粋な目線から見た内野町の風景が次々と出てきた。自ら52ヶ所を巡って撮影した写真は、子ども目線のアングルにこだわった。完成した「知域王 内野版」を街の人たちは心から喜んでくれた。大切な宝物のように、ひとつ一つのカードを慈しんでくれた。

新しい地方創生事業。周囲が力を与えてくれた。

「ウチの地域でも知域王をつくりたい」。知名度が高まるにつれて、全国から問い合わせが集まるようになった。2023年にはすでに複数のプロジェクトの実施が決まった。これまで教育的な側面から注目されてきた知域王に、「地域の魅力を発信するツールとして使いたい」という声も加わってきた。そんなタイミングで、教育事業部から旅行事業部に異動。新しい上司からは「知域王に関しては田宮に任せた。とにかく自分が正しいと思うことをやってくれ。俺がバックアップするから」と言われた。こんな言葉をかけてくれる上司のもとで、燃えないわけがない。これまで企画から実制作までを実質一人で担当してきたが、今後は組織として対応する段階に入る。旅行事業部では定期的にミーティングを重ねながら、知域王の新たなニーズの開拓に取り組む。さっそくひとつ、知域王をまちおこしに活用するというアイデアが出た。自治体や町おこし団体に知域王のノウハウを有償で提供し、田宮自身がコンサルティングする。地域住民や観光客らを巻き込みながら、知域王を制作するプロセスそのものを町おこしにつなげていく。すでにいくつかの自治体でトライアルも決まった。これもまた新しい地方創生のカタチ。知域王を立ち上げて3年。タマゴは無事にヒヨコになった。自分はつくづく運がいいとは思う。でも、運だけでもない。これまでの積み重ねがあって今がある。新しいことにワクワクして仕事ができること。上司と仲間に恵まれたこと。そして何より、自分のような出る杭を面白がって引っ張り上げてくれる会社に入れたこと。さあ、ここから本当の勝負が始まる。

※所属表記・記事内容は、取材当時の内容に基づいています。
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