給食現場の知恵を未来へつなぐ、AI 献立の実装で見えたこと

昨年7月のコラムでは、給食現場における人手不足や業務負担の増加といった課題に対し、“AI献立”をNSGグループの株式会社日本フードリンクと株式会社人工知能研究所で共同開発し、「現場を支える技術」として活用していく可能性についてお話ししました。その取り組みが実際の現場で使われ、「Meally(ミーリー)」という“AI献立”の自動生成システムになり、販売を開始する段階まで進みました。
※昨年7月コラム:https://note.com/shogo_ikeda/n/n3b64bd80a95b
当時はまだ試行段階でしたが、実際にシステムを扱う栄養士の声を反映しながら改善を重ね、外部の給食現場にも活用いただける形になったことは、大きな一歩だと感じています。
ただ、この一年で感じたのは、AIは開発した瞬間に価値を持つわけではないということでした。現場ごとの運用の違い、担当者による判断基準の差、数字だけでは整理できない感覚。そうしたものに向き合って初めて、日々の業務を支える仕組みになっていくのだと思います。

“献立づくり” は単なる計算ではなかった
献立づくりという仕事は、外から見る以上に複雑です。栄養バランスだけを整えれば良いわけではありません。アレルギー対応、食材価格の変動、季節感、調理現場の人員体制、施設ごとの設備環境。さらには、食べる人の年齢や嗜好、食べ残し傾向まで考慮しながら、一つの献立が作られています。
例えば、栄養面では整っている献立であっても、調理工程が複雑すぎれば現場は回りません。コストだけを優先すると、食べる人の満足度や食べ残しに影響する場合もあります。複数の条件を見ながら、現場に合う形を探っていく仕事なのです。
開発を進める中で、もう一つ見えてきたことがあります。食材や栄養価のデータはあっても、それだけで現場に合う献立ができるわけではない、ということです。実際の献立づくりには、経験に基づく判断が数多く含まれていました。
「この組み合わせは、食べてもらいやすい」
「この時期はこの食材が扱いやすい」
「この工程なら少人数でも回せる」
そうした知恵は、必ずしも言葉や数値で整理されているわけではありません。しかし、現場ではその判断があるからこそ、日々の食事提供が成り立っています。だからこそ必要だったのは、現場の知恵をAIに置き換えることではなく、これまで個人の経験に支えられてきた判断を可視化し、次の世代へつなげていく仕組みをつくることでした。

AIだけでは、現場に合う献立は完成しなかった
今回の開発を通じて、明確になったことがあります。それは、AIだけで現場に合う献立は完成しなかったということです。AIは膨大な条件を整理し、献立のベース案を作ることができます。これまで時間のかかっていた作業を支え、栄養士の負担を軽減する力もあります。しかし、最後に必要になるのは、やはり人による判断でした。
「この献立は本当に喜ばれるだろうか」
「調理現場に無理はないか」
「その施設に合った食事になっているか」
そこには、数字だけでは測れない視点があります。私たちが目指したのは、“人を置き換えるAI”ではありません。AIが条件を整理し、人が現場に合わせて判断する。その関係性が、今回の取り組みで見えてきた形でした。
「負担を減らしたい」という現場の声から始まった
今回の取り組みの出発点は、とてもシンプルでした。「現場の負担を少しでも減らしたい」その思いです。給食の現場でも、人手不足や業務負担の増加は大きな課題になっています。その一方で、献立作成に求められる条件は増え、業務はより複雑になっています。
その結果、特定の担当者に業務が集中しやすくなり、個人の経験に依存する部分も大きくなります。もちろん、経験に基づく判断は現場の大切な力です。だからこそ、現場で培われた知恵を可視化し、継続できる形にすることが必要でした。テクノロジーは、現場を置き換えるためにあるのではありません。現場で働く人の判断を支え、負担を減らし、これまで積み重ねてきた知恵を次につなげるために使うべきものだと考えています。
その積み重ねの先に、業務をどう続けていくのか、経験をどう次につないでいくのかという課題が見えてきました。私たちは、最初から大きな社会課題取り組んだわけではありません。まずは、日々の献立づくりに向き合う人たちを支えたい。Meallyは、そこから始まった取り組みです。
最後に残るのは、現場の知恵
AIは目的ではありません。あくまで手段です。大切なのは、「何をAIに任せ、何を人が担うのか」。その問いに向き合い続けることだと思います。
今回のMeallyも、「献立作成AIを作った話」ではありません。現場に向き合い続ける中で、積み重ねてきた知恵をどう残し、どう次につなぐか考えた結果、テクノロジーを活用する形になったというものです。
販売開始は、一つの到達点であると同時に、ここからが本当の意味での始まりでもあります。Meallyが、給食現場で働く方々の日々の負担を少しでも軽くし、現場で培われてきた知恵を次につなぐ一助となることを期待しています。 〆


