2024年グッドデザイン賞受賞!放課後の時間を豊かにデザインする「こどもおとな基地イロトリドリ」

2025.03.13 Thu

新潟市西区の「こどもおとな基地イロトリドリ」は、放課後児童クラブやフリースクールなど様々な機能を増やしながら、「放課後をリデザインする」という目標に向かって活動する施設。幼児から中学生まで約85名が登録し、家庭と学校に続く第3の居場所としてさまざまな過ごし方を提供しています。放課後を子どもたちの個性や可能性を伸ばす貴重な時間として新しい価値を生み出している点が評価され2024年度の「グッドデザイン賞」を受賞しました。
今回は、設立経緯や理念、具体的な活動内容について、株式会社DreamAdvance ソーシャルデザイン事業部 ゆめのき学園の羽賀 万起子さん、「イロトリドリ」のチームリーダー 市橋 吹美さんにお話を伺いました。

左:羽賀さん、右:市橋さん

自分らしくいられる、新しい選択肢を作りたかった。

― 「こどもおとな基地イロトリドリ(以下、イロトリドリ)」が誕生した経緯を教えてください。

羽賀 2020年の6月、ちょうどコロナ禍の時期に立ち上げました。最初は放課後児童クラブとしてスタートしましたが、特にこだわりはありませんでした。私が幼稚園教諭を経て放課後児童クラブのスタッフとして働いてきた経験があったため、その形が始めやすかっただけなんです。
大切にしたかったのは、子どもたちが「自分らしくいていいんだ」と思える居場所を作ることでした。後にフリースクールの機能を加えるきっかけになったのは、娘が不登校になったことです。ちょうどコロナ禍の時期に小学校入学をしたのですが、大規模校だったためクラスの半数ずつが午前と午後に分かれる分散登校が実施されていました。ある日、午後の登校時間に娘が少し遅れてしまい、校門が閉まっていたことがあったんです。その時の恐怖から娘は学校に行けなくなりました。
当初イロトリドリは午後からの開所でしたが、娘が通うために午前の時間も始めたところ、他の保護者からも「実はうちの子も不登校なんです。朝から通わせてもらえませんか?」という声が上がり、現在の形になっています。

― 「不登校の子どもたちが通う場所がない」という課題が見えてきたということでしょうか?

羽賀 もともとフリースクールという形を考えたことはなかったんです。午前中から子どもを預かることはできても、フリースクールと名乗るからには子どもたちの未来が見える形を整えた上で運営がしたい。そのために何が提供できるのかという自問自答がありました。
また、フリースクールというカテゴリーに縛られてしまうことも懸念していました。放課後児童クラブもフリースクールも私たちにとってはあくまで手段のひとつで、冒頭にお話した通り「子どもたちがイキイキと過ごせる場所」を作ることが何よりも大切だったんです。
だからこそ、最初からフリースクールとしてスタートするのではなく、徐々に形を整えていく方法を選びました。

― 公設の放課後児童クラブ(以下、ひまわりクラブ)に課題があったから始めたわけではなく、新しい選択肢を作りたかったということなんですね。

羽賀 そうなんです。以前ひまわりクラブの職員をしていたときから、可能性に満ちた場所だと感じていました。改善したいという思いではなく、そこから得た経験や、子どもたちに教えてもらったことを活かして、もっと広がりのある新しい場所を提案したいという気持ちで始めました。
当時から「子どもの持つ力はすごい」と思わされることばかりだったんですよ。ひとつ学年が上がるたびに成長の幅も大きくて、3年生ぐらいになれば自分の意見をしっかりと持つことができます。集団の中で自らやることを見つけてくれたり、役割を全うしてくれたりする。だから、子どもたちを預かっている感覚は一切なくて、ともに過ごし、ともに成長させてもらっている気持ちだったんです。学童保育の「保育」という言葉に疑問を持つくらいに、「子どもってすごい」と思っています。

 

すべては、子どもたちの「やりたい」から。

― たくさんの思いを込めて作ってきたイロトリドリですが、子どもたちはどのように過ごしているんですか?

市橋 午前から来てくれる子と、放課後の時間から来てくれる子が一緒に過ごしています。
小学生を中心に、幼児から中学生まで登録数は約85名。「イロトリドリ」がある校区内だけでなく、校区外から保護者の送迎や公共バスなどを利用して通う子どもたちもいます。スタッフは大学生や専門学校生、社会人など、多様な背景を持つ15名が在籍し、運営に携わっています。
過ごし方については、子どもたちが「何をしたいか」「誰と過ごしたいか」を自分で選んで決められるように、細かな時間割は設定していません。その日に子どもやスタッフの誰と過ごすかによって、「カードゲームを持っていこう」「工作をしよう」とそれぞれが考えています。最近は朝、卓球をするのがブームです。
また、自分が好きなもの以外にも出会ってほしいので、毎日一つのテーマを決めて、「プロジェクト」という時間を設けています。作家さんを招いて木工をしたり、お料理教室のスタッフさんとクッキングをしたり、もう使わなくなった家電や電子機器を安全に解体したり、いろいろな活動をしています。
学習面では「しるえるはうす」というサポートの時間を設け、大学生スタッフと協力して運営しています。自分の学びたい内容を自分のペースで進められる環境です。友達と教え合ったり、大学生スタッフに質問したり、学習に苦手意識がある子も安心して取り組める場になっています。

羽賀 しるえるはうすも最初からあったわけではなく、途中でイロトリドリに加わりました。大人が作った完成形を最初から用意するのではなく、子どもの声を大切にしながら追加しています。
最近は高学年が増え、「先のことを考え始めた」「学校に行ってみたいけど授業がわからない」という声が聞こえてきたので、学習サポートが必要だと考えて作りました。

市橋 イロトリドリには決まったルールはありません。唯一決めたことが「勝手に外に出ないでね」というもの。これは、感情が高ぶったときに突発的に飛び出してしまう子どもがいたからで、成長とともに守れるようになり、自然とルールもなくなりました。

羽賀 ルールは、守ることが大事なのではなく、なぜ必要なのかを根本から考えることが大事だと考えています。ルールがあることで生活が豊かになったり、気持ちよく過ごせるなら意味がある。でも、守れないならそもそも合っていないのかもしれない。その都度話し合って変えていけばいいと思います。
私自身が理由が分からないことをやらされるのは気持ちが悪いんですよ。心と体が乖離する感覚がする。子どもも同じですよね。

 

形だけの連携よりも、地域を好きになること。

― 地域の中にある施設として、周囲との繋がりも大切にされていると伺いました。

羽賀 「地域とのつながりが深いですね」や「多世代が関わる場ですね」とよく言われるんですが、それ自体を目的にはしていません。もちろん地域とのつながりは大切です。そもそも、地域との関わりがなければ、この事業は成り立たないと思っています。
まずは自分たちから地域を知ること。長く住んでいる方々に教えてもらうこと。ご挨拶をして受け入れてもらうこと。そうやって私たちの存在が地域の一部となっていく。「地域と連携しなきゃ」と考えているわけではなく、純粋に「もっと地域のことを知りたい」「好きになりたい」と思っています。

市橋 私たちがここで過ごせるのは当たり前じゃないと思っています。イロトリドリは手狭になって二度の移転をしているんですが、静かな住宅地の中に子どもたちの声が響く場ができることに、最初は驚く方もいらっしゃると思います。周囲のご理解があって今がある。その感謝の気持ちはずっと忘れずにいたいですし、もっと地域の方々とつながりたいと考えています。

羽賀 最初の頃は、ご意見をいただくこともありました。でも、それは当然の反応だと思うんです。その声を聞くことで、私たちも「どうすればより良い関係を築けるか」を考えることができます。
こういう場は「成功の物語」のみが語られがちですが、そこに至るまでは色々なことがありますし、大切な経験になっています。

 

「放課後デザイナー」というワクワクする仕事。

― イロトリドリは、2024年度グッドデザイン賞を受賞されました。応募や受賞の経緯について教えてください。

羽賀 以前からグッドデザイン賞の名前は知っていました。でも、建築やプロダクトを評価する制度だという認識でしたし、「デザイン」に対しても自分たちの業界とは無関係だと考えていました。
グッドデザイン賞への応募を提案してくださったのは、ゆめのき学園のコンサルティングをお願いしているザツダン株式会社の横田孝優さんです。「教育や福祉の枠を超えて、もっと広く発信してもいいのでは?」と気づかせてくれたんです。「イロトリドリの取り組みは、他の業界から見たらすごいことですよ」と背中を押してもらい、チャレンジすることを決めました。

市橋 私もグッドデザイン賞は知っていましたが、自分たちが関わるなんて想像もしていませんでした。「そんなふうにイロトリドリのことを評価してくれる方がいるんだ」と嬉しくなりました。

羽賀 審査員からは「放課後を単なる空白の時間ではなく、子どもたちの個性や可能性を伸ばす貴重な時間として再評価し、『第3の居場所』として新しい価値を創造している点に共感し、高く評価した」という、嬉しい言葉をいただきました。また、職員だけでなく、色々な方が受賞を喜んでくださったのもありがたかったです。

― デザインつながりで、お二人は「放課後デザイナー」という肩書きでお仕事をされているとも伺いました。

羽賀 「放課後デザイナー」も、ザツダンの横田さんのコンサルティングの中で生まれた言葉です。イロトリドリやゆめのき学園は、株式会社DreamAdvanceのソーシャルデザイン事業部という位置づけなのですが、これは私が幼稚園教諭時代から抱いていた疑問から始まっています。
大人はみんな「子どもに豊かな経験を与えたい」と口にしますが、幼稚園・保育園・こども園では、資格を持った担任の先生としか接する機会がないんです。受ける影響も限られてきますよね。子どもたちの育ちに重要なのは環境だし、どんな人と接するかが大きいはずなのに、そのほとんどを担任だけが受け持つことになります。そこに違和感がありました。
私たちが子どもたちの豊かな時間を作るためには、もっと色々なものをつないでいく必要があるんじゃないかとずっと思っていたんです。そんなときに横田さんから「放課後デザイナーと名乗るのはどうですか?」と言われて、すんなり受け入れることができました。他のスタッフに伝えた際も、みんながズレのない解釈をしてくれて自然に受け入れられていました。
放課後児童クラブの職員には「放課後児童支援員」という国家資格がありますが、正直ポジティブなイメージが湧きづらい名前だと感じます。放課後デザイナーという名前を横田さんにもらったときに、自分たちがやりたいことがスッキリと言語化できた気がしました。

市橋 私たちは「子どもたちを育てる」ではなく「一緒に過ごす」という認識なので、「支援」という言葉に違和感がありました。放課後デザイナーという言葉には、ワクワクさせてくれる力があると思います。

 

事例を共有し、称え合う「放課後デザインアワード」。

― ゆめのき学園では昨年、放課後デザイナーとしての成果を表彰する「放課後デザインアワード」というイベントも開催されたそうですね。

羽賀 私たちは日々子どもたちと向き合い、色々な機関と連携をして、試行錯誤を繰り返しています。そんな日常をもっと見える化して発信したいという思いがずっとありました。
ゆめのき学園では、新潟市指定管理業者としてひまわりクラブ3施設の運営もしていますが、その成果を市や他の指定管理業者と共有する仕組みがないことが課題でした。
最初は「事例研究発表会」をやろうと考えていたのですが、ザツダンさんに相談したところ、「せっかくならゆめのき学園らしく、楽しくポジティブな会にしよう」という提案をもらいました。確かに現場で頑張っているスタッフにスポットライトが当たる機会が少ないので、彼らが頑張ってきたことを堂々と発表できる場にしたいと思い、アワード形式での開催を決めました。ひまわりクラブ3施設とイロトリドリの計4施設の代表者が「放課後をリデザインする」をテーマにプレゼンし、投票によってグランプリを決める形式です。当日はスタッフや関係者など、80名以上が足を運んでくれました。

市橋 私はイロトリドリチームとして、アルバイトのスタッフと一緒に登壇をしました。準備段階では何を発表するか悩みましたが、イロトリドリに集まる子どもにも大人にも好きなところがたくさんあることを振り返ることができ、とても幸せな時間でした。一緒に登壇したスタッフは、人前で話すことが得意ではないのにとても頑張ってくれて、色々な思いを聞かせてもらう機会にもなりました。他のひまわりクラブの発表も学びが多く、今年も開催予定の放課後デザインアワードが楽しみです。

 

今後どんな場所になるのか、私たち自身が楽しみ。

― イロトリドリの今後の展望について、お聞かせください。

市橋 イロトリドリが持つ役割を変わらずに大切にしたいです。今は小学5年生が一番多いのですが、彼らが中学生になっても「帰ってこられる場所」としてあり続けたいという思いがあります。子どもたちは年齢によって過ごし方が変化しますが、低学年の楽しさを大切にしつつ、高学年の時間も豊かになるように、様々な活動を展開させていきたいです。

羽賀 イロトリドリは私にとっても居心地が良くて、ここに関われていることが幸せだといつも感じています。今後の展望については良い意味で、「わからない」。ゆめのき学園はずっと理念を持って事業をやってきたのですが、放課後デザインアワードでスタッフたちのプレゼンを聞いて、核の部分がしっかり共有されていて非常に感動しましたし、安心して任せられると思ったんです。イロトリドリは3年前に市橋先生が入社して、良い変化がたくさん生まれました。今いる子どもたちが成長し、新しい子どもたちもやってきて、関わる大人も変わることで、イロトリドリにはまた新しい色が加わるはず。イロトリドリがどのように変化していくのか、私が一番楽しみにしています。

 

株式会社DreamAdvance ゆめのき学園 イロトリドリ

こどもおとな基地イロトリドリは、「生きる力」を育むみんなの居場所。放課後児童クラブ、フリースクール、学習サポートなどのさまざまな顔を持ちますが、毎日「何をするか?」は子どもたちが自分で決めます。また、多彩なスキルを持ったスタッフや外部の専門家が指導をする 「プロジェクト」を日替わりで実施。小学生だけでなく、幼児・中学生・高校生・大学生・大人まで、多様な世代や背景を持つ人々がともにつくる場所です。

〒950-2076新潟市西区上新栄町5丁目17-3
TEL:025-201-8920
https://www.irotoridori-niigata.com

 

 

 

 

 

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