水害を経験し高まる防災意識。 安心して施設を利用してもらうために。

2024.07.23 Tue

社会福祉法人愛宕福祉会が運営するケアハウスせきかわは、安心して自立した生活を送るための高齢者向け住宅です。2階と3階には温泉もあり、食事や入浴などのサービスを提供しています。グループホームも併設されており、のどかな風景の中でゆったりとした時間が流れています。

2022年8月3日と4日、新潟県村上市および関川村は土石流と洪水の被害に襲われ、ケアハウスせきかわも1階部分が浸水しました。今回は、水害当時に施設長として務めていた加藤貴人さんに当時の状況を伺い、後任として施設長を務める廣瀬哲也さんに現在行っている防災対策についてお話を伺いました。

加藤貴人さん(左)、廣瀬哲也さん(右)

 

水位が上昇する中、行われた垂直避難。

— 関川村を襲った豪雨による水害と当時の対応を教えてください。

加藤 当時、私はケアハウスせきかわとグループホームせきかわのセンター長を兼任していました。3日夜、関川村では雨が強く降っていましたが、行政からの避難指示はありませんでした。4日の夜中1時頃に、内水氾濫が発生し敷地内に濁流が流れ込んできました。グループホームは平屋建てのため、利用者9名は隣接するケアハウスの3階に避難するという対応をいたしました。
グループホームの利用者が移動した後、ケアハウスせきかわの1階にお住まいの入居者6名も同じ建物の3階に避難しました。当時、外は地面から120センチ、ケアハウス内は床上60センチまで水が浸水しており、ベッドに寝ていれば水没していたことでしょう。

 

— 皆さん無事に避難できたのですね。

加藤 はい。グループホームの利用者さまは特に認知症を抱えており、パニック状態になると1人で外に出てしまったり、コミュニケーションが難しくなったりすることがあります。本当に命の危機に関わる状況でした。職員は「何とかこの方々の命を守る」という思いで行動してくれました。

 

避難後、利用者の生活を支えるグループ連携

— その後の状態はどうだったのですか?

加藤 水が引いたあとの施設内は汚泥で覆われており、1階の厨房、事務所、食堂が壊滅的な状態でした。独特の悪臭が立ち込め、とても生活できる環境ではありませんでした。幸い、現在使っていない村の旧デイサービスセンターの広間が開いているとの情報をいただき、そちらにケアハウスせきかわの入居者28名とグループホームの利用者9名、全37名の利用者が一時避難することができました。

 

— 復旧に向けて法人内でどのような連携を取りましたか?

加藤 「このまま避難所生活が続く」という懸念がある中で、愛宕福祉会の各事業所に連携をとってもらいました。各施設の協力のもと、ケアハウス利用者様を豊浦愛宕の園、あやめ寮、新潟北愛宕の園に分散して受け入れることができました。
しかし、グループホームの9名は離れ離れになると認知症の症状悪化などが懸念されました。「9名全員で共に生活できる場所」を探す中で、NSGグループの医療法人社団共生会が運営していた胎内市にある旧小規模多機能型施設「ちゅーりっぷ苑」を間借りさせていただき、1ヶ月半程そこで生活することができました。
NSGグループの医療・介護・福祉事業のネットワークがあったからこそ実現できたことで、「ちゅーりっぷ苑で受け入れてもらえなかったらどうしていたのだろう」と今でも思います。

 

利用者さまの命を守るために。

— 水害を経て得られた経験はどのようなものでしょうか?

加藤 ご利用者さまの命、職員の命を守ることが最優先であると改めて感じました。行政のマニュアルでは水平避難が第一の選択肢とされています。それができれば理想的ですが、現実はそんなに甘くないということを経験しました。自分たちで命を守る判断をする強い気持ちを持ち、その上で地域と連携することが重要だと思います。

廣瀬 実際に水平避難を行おうとすると、グループホームの認知症高齢者9名、ケアハウスの利用者30名が関川中学校へ避難することになります。マイクロバスも介護車両もない中で、それは現実的に困難です。だから、有事の際は垂直避難を第一の選択肢とするように避難計画の修正を行政と協議していく必要もあると考えています。幸い、私たちの施設は3階建てであるため、最大10mの浸水でも避難できます。命を確保するため、どういった避難行動が良いのか常に考えなくてはいけません。

 

— 安心して施設を利用してもらうためどのような取り組みをされていますか?

廣瀬 毎年一回、村と協議した避難計画に基づいて、水害を想定した避難訓練を実施しています。この訓練では、車椅子を使った避難や垂直避難など、さまざまなケースを想定し、毎年少しずつ改良を加えています。
また、グループホームとケアハウスの利用者が一体となって避難訓練を行い、緊急時にスムーズに対応できるよう準備を整えています。さらに、非常時に備えて3階には非常食や水を集約し、垂直避難の際に利用者が安全に過ごせる環境を整えています。
災害時に適切な判断ができるよう、職員の判断基準も明確にしています。例えば、「線状降水帯」という言葉が出た時点で避難を開始するなど、基準を具体的に設定しました。

 

— 地域とはどのような連携をしているのですか?

廣瀬 村主催の「地域ケア会議」が実施され、他の施設や警察、消防、社会福祉協議会、村役場などと災害時の協力体制を構築しています。災害発生時の連絡体制を明確にし、集中豪雨に対する排水機能の見直しなどについても議論しました。
また、災害時に支援が必要な高齢者等の避難支援がスムーズに行われるように、避難行動要支援者名簿を作成し、地域の自主防災組織とも連携して避難計画を策定しています。
2024年度から社会福祉施設でも義務化されたBCP計画(事業継続計画)を踏まえ、災害時でもサービス提供が維持できるような体制を整備していきます。

— 水害を経験されたご利用者の反応はいかがですか。

加藤 関川村在住のご利用者さまの中には、羽越水害を経験されている方もいらっしゃって、私たちよりも落ち着いていました。「こういうときは慌てちゃいけないんだよ」と逆に教えていただくことも多々ありました。ケアハウスに戻られたときには、「避難先で職員の方にも優しくしてもらえたけれど、やっぱり我が家がいい」とおっしゃっていました。「温泉に入れるだけでも気持ちが安らぐ」と言っていただけるのは嬉しかったですね。

廣瀬 今後も防災意識を持ちながら、ご利用者さまに気持ちよく安心して過ごしていただけるよう、職員と共に備えていきたいと思います。

 

ケアハウス せきかわ

60歳以上の方が安心して自立した生活を送るための高齢者向け住宅。3階部分に大浴場、2階部分に中浴場があり、関川村の素晴らしい景色と湯量豊富な温泉をお楽しみいただけます。

〒959-3261 新潟県岩船郡関川村大字湯沢1826番地2
TEL.0254-64-1111

 

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