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eスポーツを活用した高齢者向け認知症予防イベントを学生が主体となり開催。
今、ビデオゲームなどのプレイ技術を競うeスポーツが注目されています。国際アート&デザイン大学校では2022年度から、高齢者支援として認知症予防をテーマにしたイベントをeスポーツ科の学生が主体となって行い、参加者から好評いただいているとのこと。
どのような経緯でイベントに関わったのか、学生の取り組み、参加者の感想などを、国際アート&デザイン大学校eスポーツ科担任 渡邊淳基さんに伺いました。
高齢者の認知症予防をはじめ様々な効果があるeスポーツ。
― 国際アート&デザイン大学校のeスポーツ科とは、どんな学科ですか?
渡邊 eスポーツ業界で長く活躍できる人材を育成すべく、PCの操作やゲーム制作、さらにはeスポーツ業界全体について学んでもらっています。
― eスポーツを活用した高齢者支援とは、どのような活動なのでしょうか?
渡邊 学生がサポートしながら、高齢者の方にレースゲーム・パズルゲーム・リズムゲームといったゲームをプレイしてもらいます。以前から福島県e-sports推進協議会が主導してeスポーツを普及するための活動を展開しており、「高齢者支援のイベントを計画しているので協力してほしい」という打診を受けていました。近年、「ゲームが高齢者の脳の活性化や認知機能低下の予防につながる」という研究結果が発表されていますので、社会貢献になる意義深い活動だと思い、喜んで参加することになりました。
2022年度から実施に移し、福島県内の公民館や体育館に出向いてこれまでに合計11回行いました。ある会場では、複数回参加された方を対象に県内医大が認知症に関わる反応や思考力などの測定を実施。その結果、実施前後で数値の変化が見られ、効果が認められたと聞きました。
― どのような理由でゲームを選定したのですか?
渡邊 レーシングゲームでは、東京の首都高を走るシーンがあるのですが、危機管理能力や空間認識能力が試されます。運転能力が低下していないかどうか、シミュレーションで確認することができます。パズルゲームは考えながらプレイする上に、操作がシンプル。認知症予防にマッチすると思いました。またスポーツ感覚で楽しめるリズムゲームは、上半身の運動にもなるゲームです。
― 参加者の感想はいかがでしたか?
渡邊 「eスポーツという言葉を初めて知った」、「やってみたら楽しかった」、「思ったより身体を使うスポーツ」という感想が聞かれました。楽しんでプレイしていただけた様子でしたね。また指導役である学生がご自分の孫世代に当たるため、ふれあえるのが嬉しいようでした。世代を超えて交流できるのも、eスポーツの魅力の一つです。
― 認知症予防以外にもeスポーツを推進する理由がありそうですね。
渡邊 はい。認知症予防は結果の一つだと思っています。お孫さんがゲームをやりたいと言った時に理解してあげやすくなりますし、日常でも共通の話題ができるなど、複数のメリットがあります。eスポーツが浸透することで、世代に関わらずみんなでゲームの話ができる、そんな家庭が増えていってほしいと思いますね。
学生が主体となりイベントの設営・運営を実施。
― 学生がイベントを実施する上で工夫したところはどこですか?
渡邊 ゲームのセッティングは日頃からやり慣れているので心配はなかったのですが、問題はイベントの進行。学生の中には喋るのが苦手な人もいて、戸惑いもあったようです。そこで、喋るのが得意な学生を司会役、苦手な学生をルールの説明役に据え、二人一組で運営しました。ルールの説明なら、熟知していてやりやすいだろうとの考えからです。結果、自分の好きなものを参加者に教えることによって、自信がついて明るく話せるようになったり、教え方が上達したりと、コミュニケーション能力が高まったと思います。
― 学生にはこのイベントを通じて何を学んでもらいたいですか?
渡邊 将来eスポーツ業界で活躍するためには、幅広いスキルが必要となりますが、その中でもゲームのルールをインストラクションする力や、年齢や世代を問わず楽しませるプランニング力は強い武器となります。また、イベントの豊富な実践経験も求められます。このイベントでは、それらが総合的に身に付きます。この経験を積み重ねることで、eスポーツ業界の即戦力になれると確信しています。
― eスポーツを通した地域貢献活動でどのような効果を期待していますか?
渡邊 eスポーツはまだまだ遊びの延長と思われていたり、一過性のブームなのではという危惧の声も一部で聞こえてくることがあります。それを払拭するためには若者のゲーム大会だけではなく、幅広い世代にいろんな楽しみ方を広げていく必要がある。福島県内での高齢者支援のような良い事例が増えれば、新しいイベントも行いやすくなります。そのようにeスポーツが成長する土壌整備の礎になれば、というのも今回参加を決めた要因の一つでした。