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ZEB導入で持続可能な教育環境を。 新潟医療福祉大学 第12研究・実習棟が目指す未来
新潟医療福祉大学が2025年2月に竣工予定の『第12研究・実習棟(V棟)』は、エネルギー収支をゼロにする『ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)』基準を満たす、県内初の教育施設です。この新校舎では、建物で消費する年間のエネルギー収支を省エネ・創エネにより実質的に「ゼロ」にする設計が採用されています。
新校舎建設に関する背景や、ZEB導入の意義について、新潟総合学園法人企画部 佐藤裕也さんと、施工を担当した株式会社クレイズプラン 設計部 第二設計室長 齊藤將秀さんに話を伺いました。
カーボンニュートラルな社会を目指して – ZEB導入の背景
— 今回の新校舎の新築にZEBを導入した背景について教えてください。
佐藤 新潟医療福祉大学では、2025年4月より健康科学部健康栄養学科の入学定員が増加し、また、既存学科の中には学年進行中の学科もあり、数年に渡り学生数が増えることを見込んでおります。学生数の増加に対応するため、校舎を新築することといたしました。学びのニーズに応える充実した教育環境を整える事に大学は取り組んでおりますが、それに加えて、環境負荷の低減は大学として取り組むべき重要なテーマであり、環境に配慮した建築を推進しています。その取り組みの中でこの度、ZEBを導入する事といたしました。
齊藤 ZEBの背景には世界的なカーボンニュートラル化の推進があります。 2030年までに温室効果ガスを46%削減する目標が掲げられており、特に建築分野でのエネルギー消費削減が重要な課題となっています。
— 建築分野でのエネルギー消費削減の重要性は?
齊藤 建築分野は社会全体の約30%の一次エネルギーを消費しています。運用時に使われる電気は「二次消費エネルギー」と呼ばれ、それを生み出すためには石油や天然ガスといった「一次エネルギー」が必要となるため省エネ対策が急務です。
— ZEBとは具体的にどのような建物なのですか。
齊藤 ZEBとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略で、 建物のエネルギー収支を「ゼロ」にすることを目指した建物を指します。具体的には、省エネルギー技術を活用して建物の一次エネルギー消費を最大限に抑え、さらに太陽光発電や地熱発電、風力発電といった創エネルギーで補うことで、建物全体のエネルギー収支を「ゼロ」に近づけます。ZEBには4ランクの認証レベルがあります。今回の新校舎は実質のエネルギー収支がゼロである、最上位認証の「ZEB」化を目指しており、2025年2月に竣工予定です。
省エネ・創エネ技術を駆使し、「ゼロエネルギー」を目指す新校舎
— 新校舎にはどのようなZEB機能を取り込んでいるのですか。
齊藤 校舎をZEB化するためには、さまざまな技術を組み合わせる必要があります。省エネルギーには、耐熱性能を高める設計と効率的な空調システムの導入が重要です。事例としては、断熱材を厚くし、複合サッシやLow-Eガラスを採用して熱損失を最小限に抑えました。また、熱回収型換気システムや日射遮蔽を考慮した庇や外壁の工夫で、建物全体のエネルギー効率を向上させています。
— 創エネルギーについてはいかがですか。
齊藤 創エネルギーとして160kWの大規模太陽光発電システムを導入しました。このシステムでは、ピーク時の建物自体の必要電力を上回る電力を発電し、余剰電力をキャンパス内の他の建物に再分配します。パネル設置は、メンテナンス性とコスト効率を考え、最も実用的な平面設置を採用しました。
— エネルギーの管理はどのように行いますか。
齊藤 新校舎にはビルエネルギー管理システムを導入し、エネルギー消費量をリアルタイムで追跡・分析します。このシステムは、空調、換気などの、建物の電力使用量に関する詳細なデータを収集し、電力使用量の見える化を実現します。また、デマンド管理機能を備えており、エネルギー使用量が急増した際には、過剰使用を自動的に抑制する仕組みを整えています。
ZEB導入が教育施設にもたらすもの
— 教育施設にZEBを導入するメリットは何ですか?
佐藤 メリットは大きく分けて4つあります。1つ目は、「光熱費の削減」です。ZEB基準を満たす建物は、一次消費エネルギーを最小限に抑える設計で運用コストを大幅に削減でき、大学が長期的に安定して運営を続ける財政的メリットになります。2つ目は、「快適性と生産性の向上」です。断熱性や気密性の向上により、一年を通じて快適な空間が提供できるため、勉学や研究に集中しやすい環境が整い、それぞれの効率も高まります。3つ目は、「建物の価値の向上」です。省エネ性の高い建物は資産価値が高まり、大学の持続可能な発展に繋がります。最後に、「持続可能性の向上」が挙げられます。ZEBはカーボンニュートラル実現の手段の一つであり、社会的な責任を果たす上でも非常に重要な取り組みです。
— 光熱費削減は大学にとって大きな課題ですね。
佐藤 その通りです。現在、新潟医療福祉大学には大小合わせて32の建物があります。その中で、新校舎のZEB化は、将来的なテストケースとしての役割も担っています。
— ZEB校舎は学生の環境意識向上にも役立ちそうですね。
佐藤 ZEBの導入の意義は、エネルギー削減だけではありません。建物自体が実用的な教育ツールとなり、新校舎でのネルギーの消費量や発電量や削減の効果等を公開することで、学生は持続可能な技術がどのように機能するかを直接知ることが出来ます。環境問題に対する意識を根付かせることは、教育的にも大きな意義を持つと考えています。
新潟県内初のZEB導入校舎が地域社会に果たす役割
— 新潟医療福祉大学ではどのようにSDGsを意識していますか?
佐藤 本学では「SDGsの達成に寄与する」という将来計画(2021~2030年度)を掲げており、新校舎を通じてSDGs目標11「住み続けられるまちづくり」へ貢献したいと考えています。ZEB校舎の建設以外にも、大学全体でのエネルギー消費の削減に向け、新電力新潟株式会社と連携しキャンパス内の他の建物にソーラーパネルを設置するなど、温室効果ガスの排出削減の取り組みを進めています。
— ZEB仕様の新校舎が地域社会にどのような貢献を果たすとお考えですか。
齊藤 この建物は、災害時の緊急避難所として機能するように設計されており、建物自体がエネルギーを生成し蓄える仕組みを備えているため、災害時には照明やデバイスの充電などに電力の提供が可能です。
佐藤 教育施設としてZEBを導入するのは、新潟県内では本学が初のケースです。全国的にもZEB認証を取得する建物は多くありません。特に、最高ランクを目指す取り組みは非常に稀です。この新校舎の建築実績を通じて、ZEBの価値を地域や全国に広め、他の企業や教育機関が環境配慮型の建築を取り入れるきっかけとなることを目指しています。
未来へつなぐ持続可能な建築のモデルケースに
— 新潟医療福祉大学が新校舎を通じて目指すことは何ですか。
佐藤 このプロジェクトで得た知識を地域社会と共有し、新潟市北区を拠点とする持続可能な建物のモデルケースとして位置づけたいと考えています。本学は2024年に社団法人環境共創イニシアチブ(SII)より「ZEBリーディング・オーナー(ZEB Ready以上の性能を持つ建物を所有・計画するオーナーに与えられる認定)」に登録されました。 ZEBリーディング・オーナーとして、新校舎での導入計画や運用成果を積極的に公開し、地域全体の省エネ意識と持続可能性の向上に貢献したいと考えています。
— 建設業界において今後のZEB普及に向けた展望について教えてください。
齊藤 この校舎建築を通じて、ZEBの重要性と価値をさらに多くの人に知っていただきたいと考えています。当社は、「ZEBプランナー」として認定されており、今後設計する建物の半数以上をZEB仕様にすることを目標としています。これは未来の社会とこどもたちのために、SDGsを意識しながら建築を進める決意の現れです。ZEB普及を通じてエネルギー効率の高い建築を推進し、防災拠点としての役割や地域社会との調和を実現し、多面的な価値を提供していきたいと考えています。
新潟医療福祉大学
新潟医療福祉大学は「優れたQOLサポーターの育成」を基本理念とし、対象者のQOL向上に向けた支援を考え、実践することのできる人材を育成するために、さまざまな取り組みを行っています。本学の学びを通じて、「看護」「医療」「リハビリ」「栄養」「スポーツ」「福祉」など幅広いフィールドで一人ひとりの「良く生きる」を支えるスペシャリストを育成します。
〒950-3198 新潟市北区島見町1398番地
TEL:025-257-4455 / FAX:025-257-4456
株式会社クレイズプラン
新築・改修の意匠・構造設計に対応。東京・新潟で保育園・医療・介護福祉教育施設を中心に新しい提案をする設計事務所です。ZEBを積極的に推進し、その意義について顧客に説明・提案をしています。
〒950-0916 新潟市中央区米山2-7-3 ITPケヤキビル4F
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