日本の「伝統的酒造り」を体現。今代司酒造が拓く日本酒の未来。

2025.02.27 Thu

創業は江戸時代の明和4年(1767年)で、250年以上の歴史を持つ今代司酒造。伝統を守りながらも品質向上や商品開発、販売戦略などにおいて革新的なチャレンジを重ねてきました。特に日本酒『錦鯉』は、インターナショナル・ワイン・チャレンジ2023のSAKE部門でブロンズを受賞し、革新的なボトルデザインと酒質が国際的な評価を受けています。
日本の「伝統的酒造り」が昨年12月にユネスコ無形文化遺産に登録され、インバウンド需要がより一層期待される中、どのような理念で酒造りに取り組んでいるのか、未来への展望などについて、今代司酒造株式会社 代表取締役社長 岡田 龍さんに話を伺いました。

 

「錦鯉」シリーズは、今代司酒造の顔として人気を呼ぶ。

ー 現在取り組んでいる主なプロジェクトについて教えてください。

岡田 今代司酒造では、輸出拡大や新規顧客の獲得を目的とした様々な取り組みを進めています。その一つが、「錦鯉」のシリーズ展開です。このシリーズは、瓶や化粧箱の繊細なデザインと高品質な味わいを兼ね備え、主に贈答用や外国人観光客のお土産用に購入いただいています。日本国内だけでなく海外でも高く評価していただいており、今後も新商品の拡充に取り組んでいきます。


(看板商品の「錦鯉」)

 

ー 「錦鯉」シリーズは国内外で多くのデザイン賞を受賞しましたね。

岡田 おかげさまで「錦鯉」の認知度が高まりました。「錦鯉」シリーズは、伝統を守りながらも革新的な酒造りに挑戦している当社を象徴する商品でもあります。そのため、商品開発においても一切妥協せず、デザインから製造、販売に至るすべての工程で高い基準を設けています。

 

ー どのように商品のブランディングを進めていますか。

岡田 最近、錦鯉シリーズの「錦鯉 黄金(こがね)」の販売の際に、「開封検知機能付きタグ」を導入しました。「錦鯉 黄金」は、こだわり抜いて製造している当社の最高級酒で、醸造年度ごとに数量限定で生産し、シリアルナンバー入りとなっています。「開封検知機能付きタグ」を導入した背景には、同商品の偽造防止とブランド価値を保護したいという想いがありました。また、商品を開封すると、開封された地域も確認できるため、マーケティングにも活かすことが出来ます。さらに、開封後にスマートフォンをかざすと専用のウェブサイトにアクセスして特別な体験が出来ることも「開封検知機能付きタグ」の特徴です。


(「開封検知機能付きタグ」を導入した「錦鯉 黄金」)

(錦鯉シルエットの封緘ラベル:開封検知機能付きタグと一体型)

 

ー 直売店も酒蔵見学も多くのお客様で賑わっていますね。

岡田 コロナ禍には一時閉店を余儀なくされましたが、現在ではコロナ禍前と同様の年間4万人のお客様が訪れるまでに回復しています。また、日本語だけでなく、英語ガイドによる酒蔵見学も行っており、外国人観光客の方々にもご好評をいただいております。
外国人観光客の方々には、自国で日本酒に触れたことが訪日観光のきっかけの一つになっている方もいらっしゃいますが、来店して、ただ日本酒を購入されるだけではありません。当社の酒蔵見学は、私たちの酒造りの理念や日本酒文化を直接感じていただけるように努力しています。
例えば、日本酒造りの第一段階として、玄米を削って白米にする「精米」という工程があります。この際に、玄米の外側部分は日本酒造りでは使用しないのですが、米油や食品の原材料に使用しています。無駄なく米を使っていることをご紹介していますが、海外の方から素晴らしいと評価していただいています。
また、直売店はモダンなデザインですが、酒蔵の中は昔ながらの歴史ある佇まいです。新旧の二面性に魅力を感じるお客様が多いと感じています。

 

積極的に海外市場の開拓にチャレンジする。

ー 海外市場の開拓にもチャレンジしていますね。

岡田 国内市場が人口減少に伴って縮小する中、海外市場を重要な成長分野と位置付けています。フランスの高級フレンチレストランでも当社の日本酒が採用されています。今後もさらに海外市場を開拓していきたいですね。

 

ー インバウンド需要も追い風になっているのではないでしょうか。

岡田 最近では、東アジア・東南アジアを中心とした外国人観光客数がコロナ禍前の水準に戻りつつあります。
20年以上前から取り組んでいる輸出の売上比率は業界内でも高い水準で、継続的にお客様にご愛顧いただけていることを嬉しく思います。
さらに、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、日本酒の注目度が一層高まり、その価値向上に繋がることが期待されます。

 

課題解決のために様々な改革に取り組む。

ー 今代司酒造ファンを増やし、満足度を向上させるために取り組んでいることはありますか。

岡田 2018年に直売店、2022年にはオンラインショップもリニューアルし、リピートしてくださるお客様が増えるよう努めています。これまで別々だった、直売店とオンラインショップのポイント会員システムを一元化しました。会員システムの機能が充実し、検索性や操作性も向上しましたので、長くご愛顧いただけるように引き続き努力していきたいと思います。

 

ー 社内体制で改革したことはありますか。

岡田 私が社長に就任したのが2022年で、販売管理システムを刷新してB to Bと、直売店やオンラインショップなどのB to Cの情報を統合し効率的な在庫管理のシステムを導入しました。オンプレミスからクラウドに移行したことで、データが可視化され、複数の社員が同時に作業を進められるようになりました。
システムを導入するまではアナログな作業工程もあり、在庫管理が非効率的でした。システムを導入した結果、各販売チャネルの受注や予約情報がリアルタイムに可視化されたことで、在庫が少ない場合には機会損失が減少、在庫が潤沢な場合には適時の販促施策が可能になり、顧客満足度の向上にも繋がっています。

 

ー 若手への技術継承はどのように対応していますか。

岡田 新潟清酒学校(新潟県酒造組合が運営する、酒造技能者を養成する教育機関)への推薦派遣や、酒造技能士の資格取得の支援、さらには社内でのOJTなどを通じて、次世代の酒造り職人を育成する仕組みを構築しています。
また、酒造り職人のみならず、次世代を担う若手社員がより働きやすい環境を提供していきたいと思います。その一歩として、私や、長年の経験を持つベテラン社員が若手社員に技術やビジネスパーソンとしてのマインドセットを伝え、社員全員が同じベクトルを向いて進んでいけるようにコミュニケーションを深めていきたいと思います。

 

伝統を守りつつ、未来を見据えて挑戦を続ける。

ー グループ企業との共同プロジェクトはありますか。

岡田 当酒蔵の隣には創業家がもともと住んでいたお屋敷があるのですが、それを活用した新たな飲食事業を計画しています。同じNSGグループのホテルイタリア軒に、料理を提供していただく予定です。酒蔵を巡り、日本酒を味わい、地域を観光する「酒蔵ツーリズム」が注目されていますが、円滑な連携が出来るグループメリットを活かし、ホテルイタリア軒との連携をより深めていきたいと考えています。

 

ー 今後の展望をお聞かせください。

岡田 海外市場の開拓を強化し、フレンチをはじめとした洋食と日本酒の新たな組み合わせを提案することで、マーケットの拡大を目指しています。国内においては、「錦鯉」シリーズをはじめとした付加価値の高い商品提案と同時に、日本酒を日常的に飲まれる方向けの「酒質の向上」も商品開発の重要なテーマです。ターゲットを絞り込みすぎず、様々な嗜好に適う商品の開発を目指すことで多くのお客様に喜んでいただき、結果として安定した経営につなげていきたいですね。
人と人が心を通わせるその時に、寄り添うことが出来る酒造りをすることが私たちの使命です。250年以上の歴史を持つ今代司酒造ですが、常に10年先、30年先を見つめて、伝統を守りつつ、新しい挑戦を続けていきます。

 

今代司酒造株式会社

1767年創業。現在は、新潟の発酵食の町、沼垂の地に蔵を構え、醸造アルコールを添加しない全量純米仕込みの酒蔵として知られています。「今と古をむすぶ」「地方と都市をむすぶ」「人と人をむすぶ」ことが自身の存在価値であると考え、古くからの伝統を大切にすると同時に新しいコンセプトやデザインにもこだわり、今の時代に合った地酒の魅力や楽しみ方を表現しています。また、新潟駅からも近く、酒蔵見学を毎日実施し、地方と都市を「むすぶ」存在として訪れた人々に地方・地酒の魅力を伝えています。

新潟市中央区鏡が岡1番1号
TEL:025-245-3231 / FAX:025-245-3233
https://imayotsukasa.co.jp/

各種リンク